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動物の福祉に ITを活用しよう

動物愛護の現状

なぜ、違反件数が少ないのか

 検察に送られるまでに至らず、違反件数に数えられないケースが4つあります。

 1つ目は、通報のハードルが意外に高いということです。動物病院に虐待を疑われる動物が来たとき、動物愛護管理法で獣医師は通報の努力義務が定められていますが、実際はなかなか通報できない実態があるようです(※9)。専門家の獣医師ですら通報できないのに、一般市民は「怪しい気がする」という気付きから「通報しよう」という決断をしなければなりません。あなたは110番通報をしたことがありますか?疑いをもった時に通報するハードルが高いために、通報されずに見過ごされるケースが一定数あると思われます。

 2つ目は、保健所など都道府県の職員へ通報された場合です。担当職員は動物愛護管理法について捜査権・逮捕権がないため、通報を受けて現場に駆けつけても、捜査することも捕まえることもできません。これは準公的機関の相談窓口や民間活動団体にも同じことがいえます。最初に通報を受けた人が警察に通報しなければ、捜査・逮捕には至らないのです。

 3つ目は、通報を受けた警察官が、必ずしも動物愛護管理法に違反する行為を正確に理解しているとは限らない点です。動物愛護管理法を理解していれば犯罪性を見極めることができます。そうでなければ見過ごしたり積極的な捜査ができず、違反事案として扱われない可能性が高い、ということです。

 4つ目は動物の所有者がわからない場合です。例えば犬では36,000頭もいます。犬に限らず、動物は自分の名前や住所を人間に伝えることができません。保護された動物の管理責任者(飼い主などの所有者。以下、所有者とします)を見つけ出すのは容易ではありません。不適切な管理をした所有者ならなおのこと、正直に名乗りを上げることはないでしょう。保護活動においては、違反行為はさておき、まずはとにかく保護を優先するしかないのです。こうして保護される動物が増える一方、検察に送られた違反件数は一向に増えないのです。

※9
日本経済新聞記事2017年11月27日東京版夕刊より
日本獣医生命科学大学田中亜紀研究員が11年に全国の動物病院を対象に行ったアンケート調査では、約 78%が「虐待が疑われる事例を経験した」と回答しました。だが飼い主とのトラブルの懸念や、通報先が分からないなどの理由で、具体的な対策を取っていないケースが大半でした。